【主な登場人物】※すべて仮名 年齢は2002年時点
滝(38歳)
このブログの著者。
長い無職生活のすえに零細ブラック企業マルビに入社するが、砂川社長との確執のため、わずか3か月で解雇される。
砂川社長(38歳)
事務機器会社を退職したあと、奥さんの親に資金を出してもらい有限会社マルビを設立。また「経営の多角化」と称して愛人と居酒屋も営んでいた。
労働基準監督官
ブラック企業を取り締まる司法警察官。※ただし、あてにならない
2002年7月下旬。
砂川社長に解雇され給料も未払いにされた私は、はじめて労働基準監督署に行きました。そうです。働く人なら誰もがその名を知っている通称「労基署」です。
労基署につくと、相談員という女性が出てきて応対してくれました。
相談員は来署した人から話を聞いてアドバイスをしてくれる人ですが、もうひとつの仕事は来署した人を追い返すことです。
なぜかというと、来署した人すべてに労基署として対応するとキリがないからです。なので、相談したいという態度では労基署を動かせません。このへんのテクについては第6章で説明します。
さて、会社を解雇されたが給料が払われないと言うと、相談員は私が持参したタイムカードのコピーを見ながら未払い賃金の金額を概算してくれました。
7月分の未払い賃金、解雇予告手当、そして在職した3か月間の残業手当を含めて約30万円です。安っ! ふつうのサラリーマンなら1か月分の給料ですね。
ちなみに労基署に行くときは、タイムカードのコピーや給与明細など手元にある証拠は全部持っていきましょう。どれが必要かは向こうで判断してくれます。
未払い賃金の概算が出ると、相談員から労働基準監督官に取り次がれました。
労働基準監督官は労働基準法などを守らない企業に対して、是正勧告や改善指導などを行う人です。
労働基準法の102条には「労働基準監督官は、この法律違反の罪について、刑事訴訟法に規定する司法警察官の職務を行う」とあります。
「司法警察官」ですから悪質な企業を送検することもできますが、実際はあまり役に立ちません。その理由についてもあとで説明します。
労働基準監督官にひととおり事情を説明すると、「じゃあ内容を記録しますから、もう一度最初からお願いいたします。」と言ってノートパソコンを開きます。
これで労基署に来てから、同じ説明を3度もすることになりました。
また最初から話をしましたが、この監督官、タイピングが苦手のようです。
こっちが気を使ってゆっくり話してあげても、何度も「ちょっと待ってください」ばかりで話がさっぱり進みません。
監督官はなんとか入力し終わると、マルビに対してどういう請求をしたいのかと訊きます。
まずは懲戒解雇の撤回です。
あのブタ野郎、いえ、砂川社長の腹いせのために経歴に傷をつけられるわけにはいきません。
と言っても、マルビに戻るつもりはサラサラないので、通常の解雇扱いにすることを要求しました。
ただし、これは会社と争ううえで致命的な戦略ミスでした。これについてもあとの章で説明します。
その他には未払い賃金の請求です。
先ほど相談員が概算してくれた7月分の給与、解雇予告手当てとして給与の30日分、そして入社からの残業手当、合計約30万円と少々の請求となります。
ちなみに残業手当の請求には残業時間の証明が必要ですが、私はマルビに入ってから他のスタッフたちにも提案して毎月タイムカードをコピーしてありました。
マルビにとっては、残業手当を払うつもりもないのにタイムカードを設置していたのが墓穴でしたね。
これもあとで北川くんから聞いた話ですが、労働基準監督署の指導が入ってからはタイムカードをつけるなと社長に言われたそうです。
【コラム】残業手当は日ごろの証拠集めが大切
残業手当を請求するには労働時間を証明できるものが必要となります。
2019年4月から使用者には従業員の労働時間を客観的に把握することが義務づけられました。
しかし実際の残業時間より少なく記録させたり、自宅に持ち帰らせてサービス残業させることも珍しくありません。
こうした記録されていない分の残業手当を請求するとき、こちらに労働時間の記録が何もなければ請求のしようがありません。
会社に記録されていない残業は、手帳などに時間と仕事内容をメモするようにしてください。証拠としては不充分かもしれませんが、何もないよりはマシです。
労働時間を証明する方法としては、パソコンの起動時間と終了時間の記録も使えます。
Windowsの場合はバージョンによって操作が多少違うので「Windows お使いのバージョン 起動 終了 ログ」などで検索してください。この記録をプリントアウトしたり自分あてに送って保存しておきます。
スマートフォンに勤怠管理アプリをインストールするのもいい方法です。
出退勤記録だけなら無料で使えるアプリがたくさんあるので、手間もかからずに日々の証拠集めが行えます。