退職の種類と辞める権利

会社を辞めるときは「立つ鳥あとをにごさず」といきたいところですが、同僚に見送られながら笑顔で円満退社できるとは限りません。

むしろ日本じゅうの企業がブラック化している今の労働環境では、退職時に会社とひと悶着もんちゃくすることも珍しくありません。

そんな世相を反映して「退職代行業」というサービスが生まれましたが、弁護士資格を持たない代行業者は本人の代わりに退職の意思を伝えることしかできません。そのため数万円も手数料をはらったのに、余計に会社とこじれてしまったケースも目立ちます。

しかし、社会問題になるほど多くの人たちが退職代行業を利用した背景には、退職に関する権利を知らない人が多いのも原因と言えます。

結論を言えば、会社がどんな屁理屈を並べようと辞める権利があります。

退職は大きく分けて3種類

退職には「辞職」「合意退職」「解雇」の3つがあり、契約期間を決めているか否かによっても辞め方が違います。

ただし労働基準法には退職についての具体的な定義はなく、退職については民法が適用されています。

「辞職」は会社に対する離縁状

江戸時代には夫から妻に対する「三行半みくだりはん」という一方的な離縁状があったそうです。今そんなことしたら逆に妻から訴えられてしまいますね。現代で三行半に似ているのが辞職するときに出す「辞表」かもしれません。

「辞職」は労働者から会社に対して「辞める」と一方的に退職の意思を伝えることです。

気持ちとしては「やってられっか、バッキャロー!」みたいな~ですね。

民法の規定では、雇用期間を決めていない労働契約の場合、退職の意思を伝えてから2週間経てば雇用契約が終了します。 社内での立場が正社員でも、パートやアルバイトのような非正規でも同じです。

よく雇用契約書や就業規則に「退職の場合は3か月前に申し出なければならない」などと書かれていることもありますが、会社の決まりよりも法律が優先されます。

年俸制の場合、以前は民法で3か月前までに退職を申し入れなければならないとなっていましたが、2020年4月の民法改正で、年俸制でも2週間前に申し入れれば退職できるようになりました。

これについては使用者が知らないことも多く、古い法律の知識を持ち出して退職を認めないこともあり得ます。そのときは法律が改正されたことを優しく教えてあげましょう。

波風たてずに辞めたければ「合意退職」

「合意退職」は会社に「辞めてもいいですか?」と打診して、「いいですよ」と承諾を得られれば退職となります。円満退職というやつですね。

会社の承諾を得るまでは退職の意思を撤回できるので、辞表を叩きつける必要がなければ合意退職を選ぶほうが無難でしょう。

もし会社から「辞められると困る」と言われたら「いえ、辞めます!」と、その時点で「辞職」の意思をあらわせばいいだけです。

反対に会社から「辞めてくれないか?」と言われる「退職勧奨」は「合意退職の打診」なので、こちらが承諾しなければ退職は成立しません。

「辞職」「合意退職」、どちらの場合も錯誤や脅迫があった場合は無効となります。

「自分から辞めないと、懲戒解雇になって経歴に傷がつくぞ」と言われて退職届を書かされた。ブラック企業ではよくあるこんな場合も脅迫による錯誤が生じているので退職は無効となります。

また、しつこく退職勧奨をしてくる場合は「退職強要」となることもあり、その場合は刑法に定められた「強要罪」という罪になります。

退職勧奨や強要は何度も繰り返されることが多いので、1度でもされたら、その後は上司とのやり取りをボイスレコーダーで録音して、裁判になったときの証拠集めに励んでください。

会社側には足かせのある「解雇」

「解雇」は会社からの一方的な労働契約の解消です。

民法では労働者に辞職する権利を認めていると同時に、使用者(会社)にも解雇する権利を認めています。

ただし会社と労働者とでは経済的なチカラが違うので、解雇はその他の法律で制限されています。これについては、次回あらためて説明します。

期間を決めて働いている場合

アルバイトなどの非正規雇用では、あらかじめ働く期間を決めていることも多々あります。3カ月とか1年など雇用期間を決めている労働契約では、原則として期間満了まで働く義務があります。

雇用期間中でも勤め始めてから1年を過ぎれば、辞意を伝えてから2週間で退職が成立します。これも使用者が知らないことが多く、トラブルのもとになりやすいパターンですね。

たとえば、あなたが会社と契約を更新しながら働いているとします。しかし働きはじめてから2年目に入れば、辞めると言って2週間経てば雇用契約は解消されます。

働きはじめてから1年未満であっても、以下のような「やむを得ない事由」なら辞めることができます。

  • ケガや病気
  • 家族の看護や介護
  • 妊娠・出産
  • パワハラやセクハラ
  • 賃金の未払いや違法な長時間労働
  • 働き方や待遇が契約内容と違うとき

どれも働くほうにすれば当然と思えることですね。とくに後半はこっちのせいじゃありませんし。

もし「やむを得ない事由」以外で期間中に退職すると、会社から損害賠償を請求される可能性もあります。しかし、どれだけの損害が生じたか、その損害はすべて労働者の退職が原因かは、会社が立証しなければなりません。

なので損害賠償を請求されることはあまりないと言われていますが、ないとも言い切れません。あまり身勝手な辞め方をすると、相応のリスクが生じるのは当然です。どうしても途中で辞めたくなったときは、それなりに理由をつけておくほうが無難です。

退職についての法律的な知識はこれくらい覚えておけば大丈夫と思いますが、それでも人手不足の企業が辞めさせてくれないことがあります。そのために「退職代行業」が生まれたわけですね。

しかし、ここまで読んでいただければ、労働者には辞める権利が認められていることをご理解いただけたと思います。

ブラック企業では退職届を受理しないこともありますが、そのときは退職届を配達記録付きの「内容証明郵便」で送ると完璧です。

※内容証明郵便については、第6章で説明します。