【主な登場人物】※すべて仮名 年齢は2002年時点
滝（38歳）
このブログの著者。
長い無職生活のすえに零細ブラック企業マルビに入社するが、砂川社長との確執のため、わずか3か月で解雇される。
砂川社長（38歳）
事務機器会社を退職したあと、奥さんの親に資金を出してもらい有限会社マルビを設立。また「経営の多角化」と称して愛人と居酒屋も営んでいた。
村田常務（38歳）
アラフォーになってもヤクザに憧れる元ヤンおじさん。社長を「オヤジ」と呼ぶ。愛読書は『代紋TAKE2』。
社長の奥さん（36歳）
豆腐メンタルの電波系おばさん。超マイナーな新興宗教が心の拠りどころで、イヤなことがあると社内で線香を炊いて拝みはじめる。
秋山さん（34歳）
入社1年にしてマルビの最古参スタッフ。中古パソコンショップの店長とパソコンの製造・メンテナンスなどを担当。
北川くん（22歳）
地元では有名な企業グループの身内。どうしてマルビに勤めたのか不思議。
牛尾くん（22歳）
社長が自衛隊専門の営業マンとして採用した元自衛隊員。口下手なくせに出会い系サイトが趣味。
ふだん、マルビの砂川社長は居酒屋の仕込みがあるので夕方は会社に戻りません。しかし、その日は珍しく午後6時ころに戻ってきました。
社長はメタボな体をどっかり席に降ろすと牛尾くんを呼びつけ、自衛隊での営業成績がまったく上がっていないと叱責し始めます。
営業経験どころか会社員の経験すらない若者を採用したんですから、まずは社員教育くらいしてやれよって話ですね。
人が叱られているのを眺めていてもしょうがありません。店舗で雑談していた私と北川くんが帰ろうとすると、社長は私を呼び止め、今までに訪問した中古車販売店からもらった名刺を出せと言います。
手元には数枚の名刺しかありません。それを見た社長は営業をしていないのかと言います。
私は飛び込み営業で名刺をもらえるのはマレで、今はまず1回目の案内にまわっている段階だと伝えました。
ところが社長は「それはおかしい。ふつうは訪ねてきた相手に名刺を出すのは当たり前だろう」と、またおかしな理屈を言いだします。
「君はうちの会社に来た人に名刺を出さないのか？」
「飛び込みセールスなら出しません」
「それはおかしいだろう」
「おかしくはないでしょう」
「いやおかしい、絶対おかしい！」
「じゃあ、社長は宗教の勧誘が来ても名刺を渡すんですか？」
「もちろんだ！」
「そのほうがおかしくないですか？」
「相手に名刺を出すのは常識だ。それが礼儀だ！」
毎度バカバカしいやり取りが一段落したとき、いよいよ社長は「ビデオカード紛失事件」のあとに用意していたであろうセリフを私に告げました。
「わかった。明日からもう来なくていい！」
社長はこの一言を言うために「中古車検索システム」の営業を私だけに命じていました。今がそのときです。
「そうですか。解雇するなら予告手当も払ってもらいますよ。それくらいの法律は知ってるでしょう？」と言うと、社長は「なんだとお？」と言って、ガンを飛ばしてきます。
私は壁を背に座っている社長を上から「壁ドン」状態で身動きできないようにして、しこたま罵詈雑言を浴びせました。
今までは部下としての節度を保ってきましたが、解雇されたら関係ありません。
私は数分間、たっぷり社長を怒鳴りつけてからタイムカードを押してマルビをあとにしました。
