労働基準監督署を見限る

【主な登場人物】※すべて仮名 年齢は2002年時点

滝(38歳)
このブログの著者。
長い無職生活のすえに零細ブラック企業マルビに入社するが、砂川社長との確執のため、わずか3か月で解雇される。

砂川社長(38歳)
事務機器会社を退職したあと、奥さんの親に資金を出してもらい有限会社マルビを設立。また「経営の多角化」と称して愛人と居酒屋も営んでいた。

さっぱり進展しない労基署の指導

7月にマルビを解雇されてから、すでに2ヶ月が経過していました。

暑かった夏は過ぎ去り、北国には涼しい秋風が吹き始めています。

9月中旬には未払い賃金を払うと是正勧告書に判まで押しながら、まだ踏み倒そうとする砂川社長。

今やすっかり労基署なれしたようで、たび重なる指導も日常茶飯事となっているようです。担当の監督官からの連絡も、次第に間隔があいてきました。

あるとき担当の監督官に「もう少し指導回数を増やしてしてもらえませんか」と言ったら、「こっちも、あなたの事件だけじゃないんで!」と逆切れされてしまいました。

その一言で、もう労基署はあてにならんと判断した私は、いよいよ裁判を起こすことを決意します。

あとになって思えば、最初から裁判したほうが早かったと、つくづく思いました。

ただし労働基準監督署があまり役にたたないのは、監督官の人数が足りないという理由もあります。

2018年度のデータですが、労働者数6,830万人に対して、全国の労働基準監督官はわずか3,000人弱。このなかには管理職も含まれるので、じっさいに現場で活動している監督官はもっと少なくなります。

ILO(国際労働機関)は、各国の労働基準監督官1人に対する労働者数は最大でも1万人までにすべきとしていますが、日本は監督官1人に対して労働者数は約2万2,000人ですからまったく足りていないことがわかりますね。

労働基準監督官は法を守らない企業を取り締まる司法警察官ですが、これほど絶対数が少なければ、ツチノコやネッシーのような「未確認生命体」とかわりません。

私たちがクルマを運転するときはスピード違反の取り締まりに注意しますが、警察がいないとわかっていれば制限速度を超えて走る人もいます。

同じように、労働基準法に違反しても取り締まられることがなければ、企業は法を守ろうとは思いません。

平成不況のころから公務員を減らせという声が増えてきましたが、減らしてもいい公務員とダメな公務員がいます。

自衛隊や海上保安庁、警察、労働基準監督官のような、国と国民の生活を守るための公務員はもっと大幅な増員と待遇の改善をしなければなりません。

残念ながら、今の日本は正反対の方向に向かっていますが……。

【コラム】労基署でのやり取りを記録しておく

労働基準監督署編の終わりに、実体験からひとつアドバイスを。

労基署に行ったときは、すべてのやり取りを記録・保存してください。

私は裁判所をとおして労基署にマルビの指導記録を提出するよう請求しましたが、断られてしまいました。

労基署が役に立たないから裁判しているのだから書類くらい出せよと思いましたが、労基署も自分たちの手を離れた案件には関わりたくないのかもしれませんね。

もし労働審判や裁判など次のステップに進んだときの証拠となるように、労基署では相談員や監督官とどんなやり取りをしたかを記録したり、監督官と交わした電子メールも残しておくことをオススメします。