解雇が認められる法律的な要件とは

企業の一方的な都合で解雇されてしまう人はとても多くて、とくに新型コロナウイルスが蔓延し始めた2020年度は10万人を超えました。この数字はハローワークが把握している人数なので、じっさいに職を失った人たちの実数は倍以上になるでしょう。

こう聞くと企業は好き勝手に従業員を解雇できるように思えますが、法律では解雇を厳しく制限しています。

労働契約法には「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」とあります。

簡単に言うと、「そりゃクビにしてもしょうがないね」と裁判所が思うくらいじゃないと認められないということです。

この法律は過去に不当な解雇をされた人たちが裁判で争い、ようやく法律となったものです。いわば、解雇された人たちの血と汗と涙の結晶と言っても過言じゃありません。

裁判になると会社はあれこれ屁理屈をつけて解雇を正当化しますが、それが「客観的に合理的」で「社会通念上相当」な理由でなければ解雇は無効と判断されます。

解雇が認められるための法律的な要件

ただし法律は「解雇ダメ! ゼッタイ」と言っているわけじゃありません。以下の条件をクリアすれば解雇を認めることがあります。

解雇事由が就業規則などに記載されていること

就業規則には、どんな場合に解雇となるかを必ず記載しなければなりません。

あらかじめ「こんなことしたらクビだからね!」という条件を挙げて、労働者の行為がそれに該当している必要があります。たとえば、

  • 勤務態度が著しく不良で、改善の見込みがない
  • 勤務成績が著しく不良で、他の職種にも転換できない
  • 精神や身体の障害で、業務に耐えられない
  • 懲戒解雇事由に該当する事実が認められたとき

このような規定が就業規則に記載されていて、それらに当てはまれば解雇が認められる可能性はあります。

それでも認められる「可能性がある」と言える程度で、勤務成績が著しく悪くて他の部署でも使い物にならない労働者の解雇が無効とされた裁判例もあります。

労働者が10人未満の会社には就業規則を作る義務はありませんが、その場合でも雇用契約書や労働条件通知書などに解雇事由が記載されている必要があります。

解雇予告を行っていること

労働者を解雇するときは30日以上前に予告するか、即時解雇するなら30日分以上の賃金を解雇予告手当として払わなければなりません。

解雇予告手当は払った分だけ解雇までの日数を短縮できます。たとえば20日分の解雇予告手当を払えば10日後に解雇できます。

法律で禁止された解雇に該当しないこと

法律では以下のような解雇は違法かつ無効となります。

  • 労働組合への参加や活動を理由にした解雇
  • 業務上の傷病や産前産後の休業中とその後30日間の解雇
  • 国籍や性別、信条を理由とした解雇
  • 労働基準監督署などの監督機関への申告を理由とした解雇
  • 結婚や妊娠、育児や介護を理由とした解雇

就業規則の解雇事由に該当しても事情によっては裁判で無効となることがありますし、解雇予告手当さえ払えば企業が好き勝手に解雇できるものでもありません。

その解雇が有効か無効かは「客観的に合理的な理由」があり「社会通念上相当」かどうかに基づいて裁判所が判断します。ですから解雇に納得できなければ、正々堂々と裁判所に是非を判断してもらうことが大切です。

さらに厳しい整理解雇

最近では「うそ、あの会社が?」と思うような企業でも人員整理は珍しくありませんね。

企業が経営難を理由に行う人減らしを「整理解雇」と言いますが、整理解雇は解雇の中でもハードルが高く、次の4つの要件が求められます。

(1)どうしても人員整理が必要

会社が潰れそうだとか、このままでは倒産間違いなし、という相当の理由が必要になります。

漠然と業績が悪いとか人が余ってるくらいの理由では認められません。

(2)解雇をできるだけ回避したか

労働者の出向や配置転換、希望退職の募集など、解雇を避けるための努力を尽くしたかが問われます。

そうした回避努力もせずに役員報酬は据え置きだったり、新たに人材を募集していると認められません。

(3)対象者の選び方に問題はないか

解雇する労働者の選び方に「あいつは使いにくいから」のような恣意的な理由がないかが問われます。

会社への貢献度や家族構成、年齢、勤務地など複数の要素を公平に検討して人選する必要があります。

また雇用期間を決めている労働契約の途中で解雇することも認められません。

(4)事前に充分な説明をしたか

整理解雇について理解を得られるように、労働者や労働組合に対して十分な説明や協議が重ねられたかも問われます。

最近はこの4つめの段階が裁判でも重視される傾向にあり、説明が少なかったり一方的では充分とは認められず、整理解雇は無効と判断されるケースが多くなっています。

【コラム】じっさいには金銭解雇が実現している?

このとおり、日本の法律は使用者による労働者の解雇をかなり厳しく制限しています。

しかし先ほども挙げたように、じっさいには毎年数万人単位で解雇されている労働者があとを絶ちません。その理由は大きく2つあります。

ひとつは解雇された労働者が泣き寝入りしてしまうためです。

不当解雇の撤回を求めて会社と争うのは、裁判の費用ばかりでなく精神的なストレスも発生します。そのため、トラブルを抱え込むより次の仕事を探すことに集中したいと思う気持ちが生まれます。

とくに日本人は出るところに出て権利を主張することが苦手ですから、クビになっても裁判所はおろか労働基準監督署に行く人すら少ないのが実態です。

だから企業はクビにしたところで、どうせ泣き寝入りだろうとタカをくくって安易な解雇を行うことになります。

もうひとつの理由は、裁判になっても結局は金銭で解決するためです。

もし裁判で勝っても、今まで争っていた職場に復帰する人は少ないですし、企業も戻って来てほしくありません。

最終的には和解が成立した時点で雇用契約の解消をして、それまでの給与を支払うことで双方とも手を打つことになります。

そのため、企業は裁判になっても最後はカネさえ払えば問題なしと安心して従業員をクビにできるのです。

今、日本政府と経済界は金銭解雇が合法的に行えるようにしようと企んでいます。しかし、そうなれば労働者は企業の好き勝手な理屈で使い捨てにされ、路頭に迷うことになります。この動きには注意が必要です。