試用期間中の解雇と内定の取り消しが無効な場合

正社員のように期間を決めずに働くときは、最初の数か月を試用期間とされることがよくあります。問題なく働いていればそのまま本採用となりますが、ときには試用期間の途中で解雇されたり、本採用を拒否されることもあります。

ダイエット食品の定期購入では「効果がなければ全額返金!」とか「初回限定980円!」などのお試しキャンペーンを実施していることが多いですよね。ほんとうに効果があるのかわからないものは最初に「お試しキャンペーン」をしてくれるとこちらも安心して購入できます。

試用期間も基本的には「お試しキャンペーン」なんですが、買い手である企業から一方的に要求されるところが大きな違いです。

企業はいったん人を雇ってしまうとクビにするのが難しいので、あとから「マズいの入れちゃったなぁ」と後悔しないように、試用期間で社員としての適性を最終確認するわけです。

と言うと試用期間中にクビになってもしょうがないのかと思われがちですが、法律上は試用期間でも解約権留保付労働契約」が成立しているとされています。

いきなり漢字が10個も並びましたが、簡単に言えば「ちょっとだけクビにしやすい労働契約」ということです。

労働契約そのものは成立しているので、試用期間中だからと企業が好き勝手に解雇できるわけではありません。と言っても、次のようなことに該当すれば正当な解雇と認められる可能性があります。

  • 遅刻・早退・欠勤が多い
  • 指示に従わなかったり誠実に働く様子がない
  • 職場の同僚たちとの協調性がない
  • 上記に対する指導を行っても改善の見込みがない
  • 学歴・職歴その他の経歴に偽りがあった
  • 業務に耐えられないほど健康状態が悪い
  • 入社手続きに必要な書類の提出などをしない

まあ最初からこんな調子じゃ解雇されてもしょうがないと思いますけど、逆に言えば、これらに該当しなければ試用期間でも解雇される理由にはならないということです。

また学生や転職希望者に対する採用内定も「始期付解約権留保付労働契約」が成立しています。

漢字がさらに3つ増えましたが、これも簡単に言うと、

  • 就業開始や労働契約の効力が発生するのは入社日からで(始期付)
  • 場合によってはそれまでに内定を取り消すこともあるけれど(解約権留保付)
  • 労働契約は成立しましたよ!

という意味になります。ここでも重要なポイントは労働契約が成立しているところです。

労働契約が成立しているということは、内定の取り消しも「解雇」にあたります。場合によっては取り消すこともあるのが「解約権留保付」という部分ですが、どんな場合に取り消されるのか?

内定取り消しが適法と認められるのは、次のような場合です。

  • 卒業できなかったとき
  • 働けないほど健康状態が悪化したとき
  • 逮捕や起訴猶予処分をうけたとき
  • 採用を決めたときにはわからなかった事実が発覚し、従業員としての適格性がないと判断されたとき

最後の「採用を決めたときにはわからなかった事実が発覚」とは、前科があったり学歴や職歴を詐称したなど、選考の時点では知り得なかったことがあとから判明した場合です。

学歴や前科の詐称は論外でしょうが、裁判で争うときは職歴の詐称が採用にどれくらいの影響があったかも考慮されます。

今まで派遣社員やアルバイトとしていくつもの仕事を経験してきた人が職歴の一部を誤って履歴書に記入しても、それが選考に重大な影響がなければ内定を取り消す理由とはならないこともあります。

たとえば「プログラマ募集」の求人に6か月のコンビニバイトを書き忘れても選考の重要なポイントになるとは考えられません。しかし「プログラマ募集 ※経験者に限る」という求人にプログラムのできない人が応募して採用されたような場合は正当な解雇理由となるでしょう。

正当とは思えない理由で内定を取り消されたときは予定通り入社させるよう企業に要求できます。某テレビ局の新卒採用で、水商売のアルバイト経験を理由に内定を取り消された女性がいました。この女性はテレビ局に対して訴訟を起こし、和解によって予定通りに採用されています。

しかし、会社の対応に嫌気がさして入社する意欲が失せてしまうこともあるでしょう。そのときは企業に対して損害賠償の支払いを求めることができます。

と言っても、内定取り消しに対する損害賠償は数10万円から100万円くらいが「相場」と言われています。日本の裁判所は損害賠償額を低く評価し過ぎるのが問題ですね。

すでに学校を卒業していたり中途採用の内定を取り消された場合は、入社していれば得られるはずだった給料を未払い賃金として請求することができます。

たとえば、初任給20万円で夏のボーナスが1か月分の条件だった内定を取り消され、卒業してから半年後の9月に和解が成立したとしましょう。

この場合だと、4月から9月までの給料120万円とボーナス20万円の合わせて140万円を未払い賃金として請求できます。

さらに慰謝料として数10万円トッピングしてもいいでしょうね。どうせ和解になれば減額されるでしょうから、訴えるときは多めに盛っておきましょう。

また学生さんが企業から内定を取り消された場合は他の内定者も取り消されているでしょうから、SNSなどで呼びかけて一緒に損害賠償を起こすのもいいかもしれません。

転職先の都合で入社できなくなった場合は、次の仕事が決まるまでの相当期間分の生活費を損害賠償として請求することもできます。

いずれの場合も解雇に対してこちらに落ち度のない場合は、弁護士に相談したり、出るところに出てお上の判断を仰ぐようにしてください。